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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)9708号 判決 1962年11月06日

原告 高塚政吉

右訴訟代理人弁護士 江口保夫

被告 丸文交通株式会社

右代表者代表取締役 弓納持久

右訴訟代理人弁護士 戸田謙

佐伯仁

主文

被告は原告は対し金一五五万七、五〇〇円及びこれに対する昭和三六年一二月三〇日から支払済まで年六分の割合による金銭を支払うこと。

原告その余の主請求を棄却する。

訴訟費用はこれを十分し、その一を原告に、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告において金五〇万円の担保を供するときは、第一項に限り仮りに執行できる。

事実

≪省略≫

理由

原告が(1)ないし(10)の手形の所持人であることは当事者間に争いがない。そして証人秋山哲一≪中略≫を総合すると、右の各手形は次の経緯で振出されたものであることが認められる。

訴外木村司と鎌田貫一は昭和三三年一月初頃弁護士秋山哲一の助言と支援のもとに各自が七〇〇万円づつを調達して被告会社の株式の半数を買受けて被告会社の営業経営権を買収することになり、木村司は単独で七〇〇万円を、鎌田貫一は湯本新平外三名から一人一四〇万円の據出をうけ、自からも一四〇万円を出金して合計七〇〇万円を調達し、これを資金として被告会社の株式の半数を取得して被告会社の経営権の委譲をうけることになつたが当時被告会社には減資にからむ訴訟が係属していて株主総会を招集できない事情にあつたため、とりあえず右両名は支配人として被告会社の経営に当ることになり、昭和三三年一月二〇日取締役の持ち廻り決議で支配人に選任され、同月二一日から現実に業務全般の引き継ぎをうけてその執行に当り、同月二七日支配人選任登記を経るに至つたが、資金不足のため同月二五、六日頃鎌田貫一は秋山哲一の保証のもとに被告会社の支配人として原告から一四〇万円を弁済期を定めず、利息月三分の約で借入れ(秋山証人及び原告本人は二〇〇万円を貸与し、内六〇万円は返済をうけたものであると供述し、鎌田証人は一四〇万円と六〇万円は別口の借金であると供述しているが、この点はいずれにしても本訴に格別の関係はない。)、次いで同月末頃秋山、鎌田、木村の三名が協議の結果、後日の証拠とする意味をもこめて前記一四〇万円の貸金及びその利息の支払のために被告会社の手形を振出すこととし秋山法律事務所において支配人木村司振出名義の前記(1)ないし(10)の手形を受取人を白地として原告に対して振出交付したものである。

このように認められ、他にこの認定を左右するに足る確証はない。

もつとも前記一四〇万円の貸金については、鎌田証人は被告会社の帳簿に記載してある筈であるというが、証人福富耕二の証言その他本訴にあらわれた証拠資料からすれば右貸金については記帳がないものと認めざるを得ないけれども、鎌田、旭両証人の証言からすれば、被告会社の帳簿は不完全なものであることが認められるので、不記載の一事から直ちに貸借の成立を否定することはできない。

右に認定したところからすれば、木村、鎌田両名の支配人就任は取締役の持ち廻り決議によるものであるから、取締役会の選任決議を欠く無効のものといわざるを得ないが、右両名は、前段認定のとおり、被告会社の経営権の委譲をうけて昭和三三年一月二一日からは現実に会社業務全般の執行に任じていたのであるから右両名は業務の全般につき包括的な代理権限を有していたものというべく(この点は弁論の全趣旨からみて原告の主張のうちにふくまれているものと認める)、したがつて鎌田が被告会社の支配人としてなした前記一四〇万円の貸借も、被告会社の支配人木村司の肩書を附してなした本件手形の振出も実体法上共に被告会社に対してその効力を及ぼすものとみるのが相当である。

被告は本件手形は秋山哲一の偽造したものであるというが、これを認めるに足る資料はなにもない。もつとも本件手形には手形番号の記載も、算用数字による手形金額の附記もなく、支払期日や支払地等のゴム印による表示にも著しく不整合の点があるけれども、これらは手形の効力を左右する事項ではないし、鎌田証人の証言によれば、右の表示の不整合は本件手形が秋山法律事務所において作成されたものであるため使用ゴム印の不揃によるものであることが認められるので、これを根拠にして手形の偽造を推認することもできない。また被告は木村司の支配人資格を争い原因関係欠缺の抗弁を提出しているが、これらの主張も結局において理由のないものであることは前段判示のとおりである。

そして(10)の手形が元金一四〇万円の支払のために、(1)ないし(9)の手形が右元金の利息支払のために振出されたものであることは原告の自認するところであるから、利息については利息制限法の適用があり、被告会社は原告に対し利息としては合計一五万七、五〇〇円を支払えば足るわけであるから、その余は原因関係を欠くことになる。したがつて原告の本訴請求は右合算額たる一五五万七、五〇〇円とこれに対する訴状送達の翌日(昭和三六年一二月三〇日)から支払済まで年六分の割合による損害金の支払を求める限度においてその理由がある。

よつて右の限度において原告の請求を認容し、主文のとおり判決する。

なお、予備的請求については、弁論の全趣旨からみて、前記限度において主請求が認容されれば、もはや原告においてこれを維持する意思のないものと認められるので、その判断をしない。

(裁判官 石井良三)

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